映画祭レポート⑨/メイキング・トーク『Away』
映画祭3日目、長編コンペティション部門ノミネート作品『Away』(後に長編部門審査員特別賞を受賞)の上映と、監督ギンツ・ジルバロディスによるメイキングトークが開催された。
『Away』は、とある島で遭難した少年と鳥が黒い巨大な精霊から逃れ、家へと帰る為にオートバイで島を駆け抜けていく物語で、全4章からなる。
予算上の理由から『Away』の制作は監督一人で行った。大変な工程だったが、自分のやりたいように作品を作ることができ、かつ、制作を通じて多くのスキルを獲得できたという。
長編作品を制作した理由はキャラクターにある。短編作品では一人のキャラクターにスポットを当ててじっくり見せることは難しく、そのため長編作品で腰を据えてキャラクターを描きたかった。
作品が全4章の構成になっているのは、チャプターの一つ一つを独立させることで、それぞれに対して短編映画として補助金を獲得する狙いがあった。また、短編作品を複数制作し、それらをつなげていく構成にすることで、もし長編が完成しなくとも短編作品として発表できるのではないかと考えたそうだ。
デザインには、様々な制限を設けている。キャラクターの数を絞ること、岩などのオブジェクトのパターンを繰り返すこと、会話をなくすことなど、映像としての十分な効果を維持しつつ複雑な要素を回避し、シンプルなデザインを追求した。3DCGで制作したのは、監督にとって3Dの方が2Dよりも制作がしやすく、素早く作品を作り上げることができるからだという。MayaというCGソフトやAdobe Premiere Proを使用し、1つのセットを1つのファイルで作成した。1つのファイルで作成することでカメラワークを工夫し、アナログカメラと同等の仕上がりにすることができている。
『Away』を制作することで、監督自身3つの教訓を得た。1つ目は「シンプルさを重視した方が成功しやすくなるということ」、2つ目は「バックアップをしっかり取っておくこと」、3つ目は「始める前にすべてを知る必要はないということ」。2つ目の教訓は制作中にデータをなくしてしまったから、3つ目の教訓は知識やスキルの習得に時間をかけすぎてしまい、先に進みづらくなってしまうからだそうだ。
今後の展望として、2012年に制作した短編作品『Aqua』をベースとした『Flow』という作品を制作しており、予告編を公開した。ロングテイクを多用し、3DCGソフトウェアであるBlenderを使用した制作を試みるとのこと。また、次作は複数人での作品制作となる。
Flow – Teaser Trailer from Gints Zilbalodis on Vimeo.
観客からあがった、カメラワークはどうイメージして行っているかという質問には、「カメラ、アニメーション、背景を同時進行で制作し、バランスが良くなるよう調整した。また、3DCGの機能でカメラを設定すると正確になりすぎてしまうため、手動でカメラをずらし、間を作った。特に、会話をカットしたため、カメラでキャラクターの状況を説明できるよう意識した」とのこと。次作『Flow』の完成を楽しみに待ちたい。